Google Cloudの「顧客を選ぶ」機械学習/AI共創プログラム、Advanced Solutions Labとはファーストリテイリングも採用

Google Cloudの、ファーストリテイリングとの提携の基盤となっているのは、「Advanced Solutions Lab(ASL)」というプログラムだ。これを通じた共同開発は、料金さえ支払えば誰でも利用できるものではないという。

» 2018年10月03日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 ユニクロなどのブランドで知られるファーストリテイリングが2018年9月、Google Cloudの「Advanced Solutions Lab(ASL)」というプログラムを通じて、需要予測などに関する共同開発を行っていることを明らかにした

 同時にGoogle Cloudは、ASLの拠点を東京にオープンしたことを明らかにした。これにより、Google Cloudは、ASLプログラムを日本国内で本格的に展開することになる。なお、東京のASL拠点は、米カリフォルニア州サニーベール、米ニューヨーク、アイルランドのダブリンに続き、世界で4番目となる。

 では、ASLとはどのようなプログラムなのだろうか。料金さえ払えば、誰でもGoogleのエンジニアを活用できるというものなのだろうか。ASLに関する責任者でもあるGoogle Cloudグローバルアライアンス&インダストリープラットフォーム部門プレジデントであるタリク・シャウカット氏の答えは「ノー」だ。

ASLを通じた共同作業は、誰にでも提供されるわけではない

 ASLは、機械学習/AIを活用してGoogle Cloudの顧客が困難なビジネス上の課題を解決できるようにすることを目指すプログラム。「トレーニング」と「共同作業」の2種類のサービスで構成されている。

Google Cloudグローバルアライアンス&インダストリープラットフォーム部門プレジデント、タリク・シャウカット氏

 トレーニングは、Googleの機械学習関連研究者/エンジニアがASL拠点で実践トレーニングを行うという。トレーニングでは、顧客のビジネスに沿った、最小限の機能を備えた機械学習モデル(「Minimum Viable Model」)の開発を行う。

 共同作業では、Googleの機械学習関連研究者/エンジニアが顧客組織のエンジニアと「サイド・バイ・サイド」で、共に課題解決を行うという。期間は、正式には数カ月ということになっている。

 トレーニング抜きで、共同作業だけを頼むということはできないという。

 「(ASLの活動を行う)AIエキスパートはコンサルティングチームではない。Google社内のプロダクト開発を行うエンジニアだ。(例えばファーストリテイリングとの協業では)課題の困難さを考えると、コアエンジニアが必要だった」

 プロダクト開発エンジニアのリソースを投入するということであれば、「トレーニングについてはともかく、共同作業についてはスケールできないのではないか」という疑問が生まれる。

 これに対するシャウカット氏の回答は2つだ。

 1つは、Google Cloudにおける機械学習/AIプロダクト開発の取り組みが、特定業界/特定分野のニーズに応えるソリューションに広がってきている点(これについては、別記事で紹介する)。ASLにおける共同作業を、Google Cloudは業界別AIソリューションプロダクトの開発プロジェクトとして位置付けている。

 2つ目は、案件を選ぶという点。「例えば私がトヨタ自動車のCEOで、『いくらでも金を払うから、ASLで扱ってくれ』と言ったらどうするか」と聞いたところ、シャウカット氏はそれでも条件があると話した。

1. 顧客は自社側のリソースをコミットしなければならない

 「最初にやることは、顧客と議論し、どれほど真剣なのかを確認することだ。特定課題の解決を、完全にGoogle側へ委ねたいと言う顧客もあるが、『それはコンサルティングであり、パートナーを紹介します』と言うことにしている」

 機械学習/AI関連では、ソリューションを導入した後に、顧客がモデルのメンテナンスや応用的な展開を進めなければならないケースが多い。このため、顧客企業は、トレーニングおよび共同作業の双方に自社のスタッフを送り込む必要がある。送り込まれたスタッフは、自社の他のスタッフをトレーニングするといった役割を担える必要がある。

 「私たちの目標は、Googleのエンジニアに、顧客を未来永劫依存させることではない。従って、まずトレーニングを受けて問題解決のやり方を理解してもらい、次に、解決の困難な問題を複数のプロジェクトに分けて、サイド・バイ・サイドで取り組む。米国におけるこれまでの経験では、最初のプロジェクトでは密接な協業を行い、次のプロジェクトではGoogleはアドバイザー的な立場になる。さらに次のプロジェクトでは、顧客はほぼ自社だけでやれるようになる。私たちはこのようにして、ASLの活動がスケールするようにしている」

2. 解決したい課題を顧客が明確に定義できなければならない

 必ずしも共同作業の前提ではないが、解決したい課題を、顧客は明確に理解している必要がある。

 「大部分のAIへの取り組みが役に立たないうちに終わってしまうのは、あらゆる課題をまとめて解決しようとするからだ」

 課題を具体的なものに絞るほど、解決は容易になるし、短期間で得られるようにもなる。また、社内で展開しやすいものにもなる、とする。

3. 解決する課題は困難なものであり、他の企業にも共通するものでなければならない

 ASLの共同作業による解決の対象となる課題は、Google Cloudのコアエンジニアのスキルが必要とされるほど、困難なものでなければならない。また、ある企業に特有の問題であれば、コンサルティングパートナーに紹介する。「少なくとも対象領域として、他の企業にも適用できる部分がなければならない」とシャウカット氏は話している。

4 関連データを、Google Cloudに置く必要がある

 「私たちは機械学習のやり方、利用するツールについて、私たちなりの考え方を持っている。このため、共同作業の対象となるデータについては、Google Cloudに保存してもらわなければならない。そうでないと、何もできない」

エネルギー関連では、TotalがGoogle Cloudと連携

 ASLプログラムは、約2年前に米国で始まった。前述の通り、Google Cloudにとっては業種別の高度なソリューションプロダクトを開発するための、重要な手段となっている。

 Google Cloudは、ASLを通じた共同作業のプロジェクト数を公表していないが、ヘルスケア業界、エネルギー業界での事例は明らかにしている。例えばエネルギー関連では、石油をはじめとしたエネルギーの開発・提供企業であるTotalが、Google Cloudとの提携で、資源の探査および評価への機械学習/AIの適用を進めていることを発表した

 「重点的に取り組んでいる業界は、金融サービス、ヘルスケア、小売、自動車および製造、エネルギー、メディア、エンターテイメント、ゲームだ。日本では、他の国に比べて製造業におけるニーズが非常に高い。他には小売業、金融サービスからの引き合いがある」

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